日本の伝統工芸や芸術は口承されることがある。ひとつの作品に長時間向き合う工芸品なら、口伝や一家相伝は可能だろう。
しかし、大量に生産し、多くの人が携わるかつお節の世界では難しい。縁起物として結納や結婚式に用いられることのあった本枯れ節は、見た目の美しさも重要視された。
良い形のかつお節には高値がついたことから、焼津から全国に「焼津鰹節標準形」の見本図が配られた。美しく、無駄のない、いわばかつお節の理想形を全国に示したのだ。戦後になると標準形の木製模型が作られるようになった。
雄節(背中側)、雌節(腹側)が作られ、ベテランたちがこの模型を使って職人たちに指導した。日本中のかつお節工場が焼津の「美しいかつお節」を目指し、それが世界の標準になっていった。